内懐の

知ってほしいと思いながら、知られたくないと思っている…

【囀】鳥とは誰の象徴か?~急変の7巻をふまえて~【囀る鳥は羽ばたかない 考察】

このブログは7巻読了時点で書いています。そのため7巻のネタバレを含みます。
8巻以降、このブログで想像した結果が訪れなかったとしても、このブログを改変することはありません。

鳥=矢代という見方(扉絵の解釈)

囀の扉絵にはいろいろな種類の鳥が登場する。その中でも特に気になるのが、6巻末で大空に羽ばたいていった、あの鷹らしき鳥だ。
鳥に詳しくないもので、もしかしたら違う種類の鳥かもしれないが。この鳥の登場歴は、2巻8話扉絵、6巻33話扉絵、6巻35話だと記憶している。

8話(矢代が銃で撃たれる回)の扉絵では、鷹のような鳥が血を流している。
33話の扉絵では、矢代が(8話の鳥と同じく肩から血を流す)鳥を引きずり歩いている。
ここまで聞くと、この鷹のような鳥は矢代の象徴かのように思える。

そして35話(矢代が百目鬼を追放する回)では、8話/33話の扉絵の鳥とよく似た鳥が大空へと羽ばたいていく。
百目鬼を放つと同時に鳥が飛び立つということは、一見百目鬼=鳥に思えるが…でもそれは百目鬼を手放すことで矢代自身の精神を解放したことを表しているのかもしれない。

面白いことに、7巻の扉絵には鳥が一切存在しない。
35話の放鳥以来、例の鳥は扉絵に姿を現さなくなったのだ。*1

40話の扉絵では、矢代が鳥の羽根を物悲しげに見つめているだけ。*2
この羽根は、あの日飛び立った鷹が残していったものだろうか?
…だとすれば、40話の扉絵が言わんとしていることは、

言いたかったことはすべて心に押し込んで、口を噤んだまま空へと飛び立ったはずが、結局あの日に囚われっぱなしの矢代

の姿なのかもしれない。

鳥=百目鬼という説(希望的観測)

だが一方で、鳥が百目鬼であるとみなせばそれはそれで面白い仮説を立てることができる。

6巻→7巻での劇的な変化といえば、矢代と百目鬼の力関係の逆転だ。
6巻までの百目鬼はとにかく寡黙で、自分の考えを言葉にすることは多くない。感情の波が激しい矢代に対して何も言えず、ただ従うばかりなのだ。
ところが7巻では、激変した百目鬼が積極的なアプローチを見せる。むしろ矢代の方が百目鬼を前に何も言えなくなる描写が目立つようになった。

6巻末の『飛ぶ鳥は言葉を持たない』では、何も言えずに矢代の元を去る百目鬼が描かれている。
そしてこの作品では、『飛ぶ鳥は言葉を持たない』の対義語である『囀る鳥は羽ばたかない』はまだ回収されていない。

6巻末の百目鬼が寡黙な『飛ぶ鳥』なら、7巻以降の百目鬼は『囀る鳥』なのではないか?
何も言えずに去るしかできなかった鳥は、今度こそ矢代の元から羽ばたこうとはしないのかもしれない。…これもまた一つの希望的観測だ。

*1:代わりに現れたのが檻に閉じ込められた新たな鳥(オウム?)。今までと打って変わって自制して生きる矢代の生まれ変わりにも思える。

*2:余談だが43話の扉絵は、40話の矢代に百目鬼が寄り添う形になっている。