内懐の

知ってほしいと思いながら、知られたくないと思っている…

ペンローズの階段を愛せるか

人生なんてペンローズの階段みたいなものだと思っていた時代がある。

ここでいうペンローズの階段とは、日々の平穏さ、すなわち単調さの比喩である。上昇、下降はあっても、ある一定の道(一般的な人生のあらすじ)からは絶対に逸れることはない。

そんなエンドレスループに嫌気がさし、どこかで脇道に抜けたいとずっと思っていて、だから病に倒れ自分の生活が壊れたときに、心の奥底には「望みが叶った」と思った自分がいた。

人生を手放したいと考える人に、死ぬほど辛くなる決定的な何かがあったとは限らない。

むしろ順調だからこそ眩暈がするのだ、目の前がペンローズの階段かのように見えてくる。いつになっても休むことが許されない、無限に上昇と下降だけを繰り返す世界に嫌気が差して、下界に飛び降りたくなることだってある。

* * * * *

…そんな思考から脱し、『人生はペンローズの階段である』というイメージをようやく否定できた頃に、ペンローズの階段が不可能図形であることを知った。

あの頃の思考は錯覚だっただろうか?

無限階段など存在しない。
それでも現実がどうであるかに関わらず、私達の目にはそう見えてしまう。そして、目の前に広がる視界が自分にとってのすべてであり、そこが生きていかなくてはならない世界なのだ。